
第09回 更年期からの人生
産婦人科(外科系診療部副部長) 槇原 研
元気な女性も、美しい人もはつらつとした人も、五十歳になり閉経を迎えると、皆さん一様に老化という言葉と向き合うことになります。顔がほてったり、一人で汗をかいたり、疲れやすい、肩がこる等いわゆる更年期の症状を経験された方も多いのではないでしょうか。
こうした急性期の症状は、辛いにしても一時のものです。しかし、それから少し遅れて膣の乾燥に伴う性交障害や尿失禁が現れ、五年から十年を経て、骨がもろくなっていくといわれます。また、動脈硬化や高脂血症を伴い、後に起きる脳梗塞や心筋梗塞など、社会生活や生命を脅かす病気にまで、女性ホルモンの欠乏が関係することが解っています。そこまでいかないにしても、ぼけや腰痛、骨粗鬆症等の原因の一つにはなるようです。こうした病気は世界最長寿を誇る日本の女性にとって、健康や人権までも脅かし、ご家族や社会にとっても、経済的に、また介護等人的負担を強いる結果になりかねません。以前は、閉経前後のご婦人の一時的な治療を目的としてきたホルモン補充療法が、こうした"老化"という範疇に入る症状・障害の予防的効果を持つことが明らかとなり、注目されています。尿道括約筋に作用して尿失禁が減ったり、アルツハイマー病への効果が期待されたりするのがその一例です。
更年期障害といえば、中年のおばさんが何かとうるさく文句を言ったり、一人で落ち込んでくよくよしたりする状態としか認識されず、あまり病気として治療の対象とはならなかった不幸な歴史があります。その一方で、ホルモンの薬を飲むと癌になるというイメージも、皆さんがお持ちのようです。こうした理由により、更年期障害に対する治療はなかなか広まらず、今日に至っております。現在までの研究で、更年期障害の治療であるホルモン補充療法は、薬の使い方によっては子宮癌や乳癌の発生率を低下させることが解りました。また前に申し上げましたように、その治療効果は一時的なものでなく、広く老化といわれてきた体の衰えを遅らせ、健康維持と医療費の抑制両面に効果が期待されています。
ホルモン補充療法の対象となるのは、閉経前後5年間の更年期の方のみならず、若いうちに閉経を迎えられた方、骨粗鬆症といわれた方、膀胱炎や膣炎を繰り返す方など、多彩となってきました。また、更年期の諸症状には運動療法が効果的であることが多く、運動について指導するクリニックも増えてきています。思い当たることがある方、元気な老人になりたい方、ぜひ婦人科に御相談なさって、輝かしい更年期・後半の人生を手に入れてください。
