
第42回 満腹で困った話
麻酔科医長 前田 真由美
ある日、A君が怪我をして、救急外来にきました。大泣きしたせいか、おなかがすいて「お母さん、ジュース!」。もうすぐご飯の時間だし、お母さんはおにぎりとジュースを食べさせてあげました。
そこへ診察の順番です。先生はA君の腕のレントゲン写真をとり、「骨が折れているみたいなので、手術をしましょう。飲み食いしたのはいつが最後ですか?」。
お母さん、「さっきおにぎりを食べました」。
先生は、「うーん、それなら手術まで4、5時間待たなくちゃ・・・」。
麻酔を受けるとき、胃の中に飲食物が残っていると嘔吐してしまうことがあります。そのため、予定手術のときは麻酔の8時間以上前に食べ物を、5時間以上前に飲み物を食すのを止めてもらっています。
全身麻酔なら、麻酔で強制的に眠っている間、咳そう反射(むせることで異物が気管に入るのを防ぐ反射)や嚥下反射(口の中のものを飲み込む反射)が抑えられてしまい、誤嚥性肺炎がおきやすくなるからです。
また、俗に半身麻酔といわれる脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔も、血圧が下がったり気分が悪くなったりして嘔吐しやすくなることがあります。 ものの本によると、麻酔中の誤嚥防止のために、炭酸・つぶつぶ・ミルク等を含まないジュースやお茶、お水は最低2時間以上、母乳は4時間以上、牛乳や軽食お菓子は6時間以上禁飲食しておくことを勧めています。
また、飲食物が胃から排せつされる時間は怪我や痛み、薬物、合併症(糖尿病など)、妊婦などで遅くなることが知られています。
A君のように、満腹のせいで手術を待たされることがないように、「手術かも?入院かな?」と思ったら、特別な場合を除き、とりあえず飲食は我慢して、医療機関でご相談くださいね。
