第89回 『腎移植』と『透析治療について』
「腎移植」や「透析」という言葉は聞いたことがあっても、詳しいことをご存知の人は少ないと思います。今回は腎移植と透析療法について、島根県や大田市での現状を交えてお話します。
腎臓の働きが悪化して、体内の老廃物や余分な水分を体外に排出できなくなった状態を腎不全といいます。腎機能が廃絶し生命の維持が困難な状態(末期腎不全)になった場合は、薬や食事療法などでは腎機能の回復は不可能で、腎移植か透析療法を受けるしか生きる方法はありません。
腎移植には生体腎移植と死体腎移植がありますが、日本では8割以上が生体腎移植で、その多くが親子間での移植です。
腎移植後は、少量の薬剤を継続する以外は普通の生活が可能になります。日本での腎移植の患者数は、最近は増加傾向にあり、2006年に初めて年間100例を超えました。しかし、県内での腎移植数は年間4例全例が生体腎移植でした。
大田市内には腎移植ができる施設はありませんが、市内の患者さんが2007年と2008年に1例ずつ島根大学病院で腎移植を受けられ、経過は良好です。以前は難しいとされていた血液型不適合や高齢の腎提供者からの腎移植も成功しています。
透析療法には、血液透析と腹膜透析という二つの治療法があります。透析療法は、腎移植のような腎不全を完治させる治療ではなく、腎臓の働きを補助する方法であるため、治療を生涯続ける必要があります。
血液透析は、血液ポンプを用いて血液を体外に引き出し、透析器を通して老廃物や水分を除去した後に、浄化された血液を再び体内に戻す治療です。血液透析を続けるために、通常は透析施設へ週2~3回通院し、4~5時間かけて血液浄化を行ないます。
腹膜透析は、腹腔内に腹膜透析液を入れ、腹膜を介して水分や老廃物を取り除く治療です。自宅や職場などで、自分で治療ができるため、病院への頻回の通院が不要で仕事も続けられるという利点や、血液透析と比べて長期に残腎機能が維持されるという特長があります。
現在、全国で約27万5千人、島根県で約1400人、大田市在住で約100人の人が透析療法を受けていますが、その数は年々増加し、最近では全国で年1万人前後ずつ増加しています。
大田市内では、透析施設が2施設に増え、血液透析ベッド数が大幅に増加したため、多くの人が、市内での血液透析が可能になりました。その一方で、大田市内の医療機関で腹膜透析を受けている人はおられません。腹膜透析も、患者さんの状態によっては有用な治療法のひとつですので、今後は市立病院でも積極的に行なう予定です。
大田市立病院 臨床研修部長(泌尿器科医長) 岸 浩史