第24回 もの忘れとぼけについて
神経内科(院長) 岡田 和悟
年をとって最近もの忘れが多くなった。こんな話をされることはありませんか?
物事を覚えている(記憶)ということは、覚えること(暗記)と覚えていること(保持)さらに思い出すこと(想起)の三つの過程が必要です。この過程には脳の中の様々な場所が関係しています。 一般にもの忘れはこのうちの思い出すことがその場でできなかったことが原因で、後で「ああ、そういえばそうだった」と思い出すことができることがほとんどです。この現象は、脳の神経細胞が減るという老化現象の影響で、誰にでも起こるもの忘れです。
ところが脳の病気のせいで神経細胞が壊されたり、なくなってしまい記憶のすべてをすっかり忘れてしまうようになることがあり、この状態をぼけ(痴ほう)と呼びます。
国際的には、痴ほうとは脳や身体の病気を原因として、記憶・判断力などの障害が起こり、普通の社会生活が送れなくなった状態と定義されています。 痴ほうの原因は、頭の中の病気や身体の病気によるものなど色々あり、病気を適切に治療することで良くなる方もあります。痴ほうの90%は「アルツハイマー型痴ほう」と「脳血管性痴ほう」がほぼ半分ずつを占めるといわれています。
アルツハイマー型痴ほうとは、原因は不明ですが脳の中に異常なたんぱく質がたまり、脳の神経細胞が急激に減って、高度の知能低下や人格の崩壊が起こる病気です。ゆっくりと始まり、徐々に悪化しますが、初期の段階では手足の運動の障害は起きません。また、本人は病気だとは思わないのが特徴です。症状としては、ひどいもの忘れがあり、新しいことが覚えにくく、忘れやすいという特徴があります。病気が進むと生活に支障をきたしたり、判断力が低下したり、さらに時間、場所、人物の判断がつかなくなります。
一方、脳卒中(脳の血管がつまったり破れたりする病気)によって、脳の働きが悪くなり、そのため痴ほうになることがあります。このタイプを脳血管性痴ほうといいます。症状としては、もの忘れや意欲の低下あるいは怒りっぽくなることが見られ、脳卒中の発作を繰り返すと段階的に悪化します。脳血管性痴ほうは、障害された場所によって、ある能力は低下しているが別の能力は比較的保たれる(まだら状)場合が多く、記憶障害がひどくても人格や判断力は保たれていることが多いのが特徴です。 痴ほうは病気の一種ですので、早期に発見し、治療を始めることが大事です。
表に痴ほうでよく見られる症状を記載しました。思い当たる項目がみられたら早めに医療機関を受診し適切な治療や介護に結びつけてください。
~痴ほうでよくみられる症状~
◆時間や日付が不確かになった
◆同じことを何度も言ったり、聞いたりする
◆慣れているところで、道に迷った
◆財布や物を盗まれたと言って騒ぐ
◆ものの名前が出てこなくなった
◆日課をしなくなった
◆以前はあった関心や興味が失われた