
第52回 医療の世界もペットブーム
診療支援部長(放射線科) 杉原 正樹
最近、医療の世界もペットブームとなっています。ペットといっても、犬、猫ということではありません。ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(Positron Emission Tomography)を略してペット(PET)といいます。
なぜ最近PETがブームとなっているかというと、がんの診断にPETが有効であることが医療機関等から数多く報告されたからです。 ほとんどのがんは、ブドウ糖代謝が亢進しています。だからブドウ糖が身体の中でどのように消費されているかを知ることができれば、がんの診断におおいに役立つのです。
今、臨床で使われている薬剤はFDG(エフ・ディー・ジー)と呼ばれ、これは、ブドウ糖(グルコース=G)にポジトロンを発生するフッ素(F)を結合させた薬です。ブドウ糖と異なり、がん細胞の中では、エネルギーになる前の段階で代謝が止まって、細胞外に排泄できなくなり、蓄積する性質があります。
正常細胞内でもエネルギーになる前の段階で代謝は止まりますが、細胞外に排泄する機能があるので、がん細胞ほど蓄積しません。だからこの薬を投与して、写真を撮影すると、薬にたくさん集まるがん細胞を早期に発見できるのです。 昨年は全国で約10万件のFDG-PETが施行され、その半数が保険診療、残りは自由診療、つまり、がん検診でした。特に有効だと言われているがんには、肺がん、悪性りんぱ腫、大腸がん、乳がんなどがあります。
しかし、このFDGという薬は、半減期が2時間弱しかないので、作り置きができません。つまり、薬を100作っても、約2時間後には50に減ります。さらに4時間後には25、6時間後には12.5とみるみるなくなってしまいます。だから、5年ほど前までは、この検査をすることができるのは、自施設で必要時に薬を作ることができる施設のみで、日本では20施設しかありませんでした。この薬を作るには何十億円もするサイクロトロンと呼ばれる設備とそれを操作する人を配置しなくてはならなかったからです。
ところが、がん診断に有効であることがマスコミでも取り上げられるようになり、4年前から、健康保険でこの検査が認められるようになってから、状況が変わってきました。FDGを供給してくれる会社が現れたのです。自施設で薬を作れなくても検査ができるようになったのです。
中国地方では岡山県に供給施設が作られ、そこから2~3時間以内の距離にある病院にFDGを供給してくれるようになりました。島根県では今のところ松江市近辺が限界です。しかし、高速道路など道路整備網が整えば、その範囲は広がっていくでしょう。
もちろん、FDG-PETも万能ではなく、それで検査をすれば、すべてのがんが見つかるというわけではありません。1cm以下の小さな腫瘍や、分化度の高い(悪性度の低い)がんなどは、この検査でもわからないことが多いのです。しかし、がん診断において、新たに有力な武器が加わったことは間違いありません。
大田市では、まだ検査できる状況ではありませんが、松江市では検査を受けられます。この検査によって、ひとりでも多くの人のがんが早期に見つかり、治癒される人が増えれば、本当にすばらしいことです。
