第44回 七十歳でも五十肩?
整形外科医長 飛田 正敏
今年は相次いで台風がやってきて、例年以上にお仕事が大変で肩が痛くなったという人も多いのでは?
今回は五十肩についてお話しします。五十肩って言葉、よくご存知だと思いますが、一体いつごろから使われている言葉なのでしょう?
調べてみると、時は江戸時代、1797年に発行された俚言集覧(りげんしゅうらん)の中に、「凡、人五十歳ばかりの時、手腕、関節痛むことあり、程過ぎれば薬せずして癒ゆるものなり、俗にこれを五十腕とも五十肩ともいう」という文章があり、これが本邦における五十肩に関しての最も古い記載とされています。 最近は四十肩という言葉もありますが、六十肩、七十肩というのはあまり聞きません。でも、みんな同じ病気ですね。
では、具体的にはどんな病気だと思われますか?
中高年期に生じる肩の痛みと思われる人?昭和20年ころまでは医師もそう思っていました。 五十肩とは肩関節周囲炎のことだよとおっしゃる人?そんなあなたはかなり鋭い!昭和55年ころまでは医師もそう思っていました。
しかし、そのころから病態がはっきり解ってきた「五十肩」には各々の病名が付けられるようになり、病院でいう「五十肩」は世間でいわれる五十肩の一部になっていきました。 その後、昭和60年ころから世間でいわれる五十肩は肩関節周囲炎と呼ばれるようになり現在に至っています。すなわち、病院でいう「五十肩」は肩関節周囲炎のひとつにあたり、肩を動かした時に痛みが強くなり、凍結肩、疼痛性肩関節制動症などとも呼ばれています。
逆に肩を動かさない時にはほとんど痛みはなく、6ヶ月から2年で自然治癒することが多いとされています。
肩関節周囲炎の中には、烏口突起炎、上腕二頭筋腱炎、肩峰下滑液包炎、石灰沈着性骨板炎、腱板損傷などが含まれますが、これらは安静時にも痛むことが多く、逆に動かすと痛みが改善することもあります。 具体的な診断は診察時の圧痛点の位置や単純X線像、MRIなどの検査所見をもとに行います。頚椎の疾患から肩の痛みを生じることもあり、頚椎を調べることもあります。
「五十肩」の治療は肩関節体操の指導や理学療法として肩を暖め動かす訓練を行います。痛みが強い場合には痛み止めの内服薬を処方したり、肩関節の中に注射をしたりすることもあります。 病院でいう「五十肩」は治るまでに時間のかかる病気のひとつですが、医学の進歩に伴い世間でいわれる五十肩に対する病院の「五十肩」の割合はどんどん小さくなって来ています。
肩の痛みが続く人は、自分の五十肩が病院ではどういう病名になるのか一度受診されてみてはいかがでしょう。