第55回 お酒で脳が縮む
地域医療支援部副部長(内科) 梅枝 伸行
日本の社会はまさに酒社会。一年中どんな行事にもお酒がついてきます。
私もお酒は好きで、ストレス解消と対人関係の潤滑油として(ノミニケーション)大いに利用しています。
しかし、これも量が過ぎれば健康を害するのは周知のとおり。
昨年、このシリーズで肝臓に及ぼす影響が紹介されましたので、今回は脳に及ぼす影響についてお話します。 アルコールは脳ととても親しいのですが、連日の飲酒で始終アルコール漬けになっていると、脳の細胞は梅酒の中の梅の実のようにだんだん縮んでいきます。これを脳萎縮といいますが、CTやMRI検査で調べてみると、脳萎縮は大脳の前頭葉に多くみられます。
前頭葉というのは、物事の判断や意志決定をするなど、最も高等な精神の中枢ですから、そこに脳萎縮がおきると正しい判断ができにくくなります。
アルコールを多く飲む生活習慣病の人は、その原因がアルコールにある事実をなかなか認めようとしません。
これは前頭葉の萎縮により最適な判断ができにくくなっているためもあるでしょう。
いっこうに酒を止めようとせず、大事な大脳を萎縮させ続けているアルコール依存症の人のうち、5人に1人が、60歳を過ぎると認知症になるという何とも恐ろしい統計もあります。 体中のアルコールを代謝して排泄するためには、神経の栄養剤でもあるビタミンB1が大量に使われます。
ろくろく酒の肴もとらない大飲家は、さらに物忘れが早くすすみ、排泄もできなくなり、ついには意識までおかしくなることさえあります。 食事もとらずに、ひたすら飲み続ける「酒飲みの美学」は、実は恍惚の人への近道をひたすら進むことになるのです。
100歳を過ぎても、なお元気な高齢者の生活習慣を調べてみると、喫煙者がほとんどいないにもかかわらず飲酒の習慣はかなりあったのですが、その量は日本酒で換算して1日に0.5合以下だったそうです。 お酒を「百薬の長」とするためには、少しのお酒で楽しく酔う節度こそが秘訣のようですね。
私も心して今夜から・・・。