
第31回 呼吸・喫煙・麻酔
麻酔科医長 前田 真由美
人間、生きていくためには様々なものが必要ですが、最も大切なことのひとつに呼吸があります。これは麻酔中でも同じですが、日常何気なくしている呼吸も麻酔中はその状態が大きく変化するために、呼吸管理は大変重要な問題です。
全身麻酔中は手術をやりやすくするために筋弛緩薬を使い一時的に筋肉が動かなくなるようにすることもよくあります。こんなときは放っていると睡眠中に息苦しくなり窒息してしまうため人工呼吸をしなくてはいけません。半身麻酔(硬膜外麻酔や腰椎麻酔)でも麻酔が効き過ぎて胸の辺りまでしびれたときに息苦しく感じることがあります。
(半身麻酔で背筋の注射後、自分で動いたり笑ったり喋り過ぎたりすると腹圧がかかるので麻酔の効き過ぎになりやすくなります)
肺の病気がある人や風邪をひいた前後の人はさらに要注意です。痰が増え、肺の弾力が低下し気管が過敏になって呼吸の合併症が起きやすくなっています。
たばこの煙も大敵です。ふだん煙を吸うと、肺の奥の細い空気の通り道が狭くなり痰や細菌等を肺の外へ排出する繊毛の働きが悪くなったり免疫が低下したりします。また、煙に含まれる一酸化炭素が血液中への酸素の取り込みを邪魔しニコチンが交感神経を刺激して心臓の負担を増やすなど、実に様々な害があると言われ手術や麻酔のときは不利になります。長く禁煙している人ほど術後の肺合併症が減ってきますが、一酸化炭素やニコチンの害は一日の禁煙でも効果があります。
日ごろから健康に気をつけることは、手術後のより順調な経過にもつながっていると感じています。
肺の持病はすぐに治りませんが、風邪防止や禁煙は努力できます。いざ手術というときによりよい状態で受けられるよう、ふだんから健康には気をつけたいものです。喉や肺の痙攣発作が起きやすく人工呼吸がうまくできない場合があるからです
麻酔科医は、手術の際、皆さんの体の細かなサインも見逃さず、安全かつ痛くないようにと努力しています。そのため、手術前には、皆さんの生まれてから今までの健康状態、持病や体質、活動度等、様々なことを聞き、術前検査の結果と総合的に判断し、最適の麻酔・全身管理を目指しています。
