
第22回 喫煙とがんについて-耳鼻咽喉科医の立場から-
耳鼻いんこう科医長 太神 尚士(前任)
喫煙が発癌因子の一つであると以前からいわれています。
喫煙との因果関係が強い癌として肺癌、喉頭癌、口腔癌、咽頭癌、食道癌があげられます。耳鼻咽喉科領域で喫煙との関係が強いとされる癌は、喉頭癌(声を出すところの癌)、口腔癌(口の中の癌)、下咽頭癌(食道の入り口の癌)があげられます。なかでも喫煙と発がんの関連を示す数値(発癌寄与危険度)が最も高いのが喉頭癌で95.8%です。その他の癌については肺癌71.5%、口腔癌58.1%、下咽頭癌を含めた咽頭癌で65%、食道癌47.8%といかに喉頭癌と喫煙との関連性が高いかが理解いただけると思います。喫煙の発癌寄与度が高いということは、たばこを吸わなければ癌にならない可能性が高いということです。
しかしそれでもやめられないという方が多いというのが現状です。
今回は耳鼻咽喉科領域の癌、特に喫煙との関係が強い喉頭癌について述べます。症状で最も多いものが「声のかすれ」です。喉頭のうち声帯にできた癌だと早期にかすれが出現します。時に、痰に血が混じることもあります。ただし喉頭癌でも声帯の周辺にできた癌は、進行してからでないとかすれてこないことがあります。時に呼吸苦が現れることもあります。
喉頭癌は耳鼻咽喉科領域の癌の中では、比較的治りやすい疾患ですが、声のかすれなどのサインを見逃し、時間が経過してしまうと治り難くなります。
次に喉頭癌の治療ですが、癌の進行度によって異なります。初期の癌では放射線治療、レーザーによる切除でほぼ治ります。ただし進行し首のリンパ節にとんでしまったものや広範囲に及ぶものは手術になります。声帯は左右にありますが片方の声帯に限局したものでは悪い方の声帯だけとる方法(垂直半切除術)がありこれだと術後に自分の声で話すことが可能です。しかし両方の声帯にまたがったもの、広範囲に及んだものだと喉頭全摘出術を行わざるを得ません。術後は発声源である喉頭をとってしまうので自分の声を一生失うことになります。しかし補声器という振動器をあごにあてて声を出す方法や、げっぷ(『おくび』)で声を出す方法(食道発声法)で意志の疎通は可能です。
予防は言うまでもなく禁煙です。また、喉頭癌は早期発見が可能です。
もし声のかすれが続くようでしたら耳鼻咽喉科医の受診をお勧めします。
