第53回 十年一昔?
総合内科医長 山内 克実
世の中にはいろいろな病気がありますが、それらはすべて遺伝的要因と環境要因とが複雑に絡み合って発症します。その中で環境要因、特に食生活や身体活動などの生活習慣が発症要因として大きな位置を占める一群の疾患を、生活習慣病として分類し、その予防及び治療対策に生活習慣の改善を図ろうとしています。
喫煙や虫歯も生活習慣と関連していますが、今日最も問題となっているのは、飽食と運動不足による過栄養を基盤にした糖尿病、高脂血症、高血圧症とそれらを危険因子として発症する動脈硬化性疾患(脳梗塞や心筋梗塞など)であり、これらを狭義の生活習慣病と呼んでいます。
最近、太って内臓の周りに脂肪がつき過ぎてしまうと、糖尿病、高脂血症、高血圧症などの生活習慣病が重複して発症する場合があります。
このような人は、一つひとつの疾患の程度は軽くても極めて動脈硬化が進みやすいことがわかり、メタボリック症候群(代謝症候群、メタボリックシンドローム)と呼ばれるようになりました。 最近の調査では、脳梗塞や心筋梗塞等の動脈硬化性疾患発症患者さんの過去を振り返ると、10年前までずっと体重、血圧、血糖、コレステロール、中性脂肪の値が軽度ながら高値であったことがわかりました。
そして肥満、高血圧症、糖尿病、高中性脂肪血症のうち、3つ以上持っていた場合は、何も持たない場合に比べて35倍、脳梗塞や心筋梗塞が起こりやすくなっていたことがわかりました。
一方で、糖尿病を対象とした調査では、糖尿病と診断された患者さんの過去を振り返ると、9年前から境界型の糖尿病であったことが分かりました。つまり境界型の糖尿病は9年、約10年で本格的な糖尿病に進行し、もしその間に肥満を持ち、かつ軽度ながらも高血圧症あるいは高中性脂肪血症もあったという人は、10年の間に非常に動脈硬化が進んでいる可能性があるということになるのです。
「十年一昔」といいますが、10年間で血管も様変わりしてしまうことになるようですから、この間に生活習慣を変えることが大切なようです。